御殿庭は、富士山の中腹、宝永山のほぼ真南にあります。森林限界と接する「御殿庭上」からは、宝永第三火口、宝永山、富士山頂を雄大に望めます。
富士急モビリティ: 御殿場駅 → 水ヶ塚公園 富士急モビリティ: 御殿場駅 ← 御殿場口新五合目
地理院地図: 御殿庭上 , ヤマレコ
御殿庭の天気: 富士山頂 , 宝永山 , 御殿場口新五合目
レポ: 宝永山 , 富士山(須走ルート) , 須山口0合⇒1合
8月4日(月)、富士山の御殿庭を訪ねました。この計画は、(1)宝永噴火口をよく見たい、(2)マイナーな「須山登山歩道」を歩いて見たいと思って温めてきたものです。そしてどうせ行くのなら、(3)花や虫も探したい。バスの時刻表を見るとやや難はありましたが、行って見るとその願いは十分に叶えられました。コース最終盤の砂礫ゾーンでは、濃霧と強風(ただし追い風)の中の一人旅。まるでファンタジーの世界にいるような体験でした。
小田急電車が渋沢を過ぎ、新松田に近づくと、晴れていれば車窓から富士山が望めます。胸躍らせて富士山に向かいたいところですが、きょうは見えません。JR松田駅のホームに立っても、富士山は隠れたまま。モヤモヤした気分で電車に乗り、御殿場駅に到着。「富士山口」から駅を出てバス乗り場に行くと、おお、富士山が見えました。影の薄いシルエットですが、好天を確信します。さっそく窓口で水ヶ塚公園往復切符を購入。2,300円也。
入線したバスは、乗り心地の好いリムジンバスではなく、普通の路線バスの車両でした。乗客の皆さんが後部の座席に着いたので、私は前のドア席です。7時35分、発車。バスは常に富士山をほぼ正面に見るように走ります。「青少年交流の家」に近づくと、電線に邪魔されない、スッキリ姿の富士山になりました。霧状の雲が時々富士山の手前を横切りますが、その向こうは晴れていることが一目瞭然。正解! きょう来てよかったと思いました。
太郎坊を通過し、御殿場口新五合目で数名が下車しました。小学生たちもいます。御殿場ルートで山頂を目指すのでしょうか? 心の中でエールを送ります。ここで乗り込んだ人々もいました。水ヶ塚公園にマイカーを置いて登頂し、大砂走りを駆け下りて来たのでしょう。バスは太郎坊に戻ると水平に快走し、御胎内入口を通過して、8時24分、水ヶ塚公園に到着しました。真っ先にバスから出て、快晴の富士山と宝永山とを見上げます。
水ヶ塚公園には、富士山の入山手続きをする窓口がありました。ただし、すでに入山料を納め、オンラインでQRコードを取得していなくてはなりません。現地での支払いを考えてきた人は、ここでの入山手続きはできません。私がきょう歩くコースは、入山料が不要なので、その窓口はスルー。トイレを済ませ、公園入口で道路を渡ります。「富士山須山口登山歩道」と書かれた標識が立っている所が1合目(?)かと思いますが、"1合目"とはどこにも書いてありません。※
さて、この「須山口登山歩道」に対して、「須山口下山歩道」もあります。富士宮ルートを除く、他の3ルートと同様です。それで私は「下山歩道」ではなく、「登山歩道」を登って御殿庭に行こうと計画してきました。道標を見ると「御殿庭105分」となっています。いざ出発すると、始めから鬱蒼とした自然林で、涼しく、静かで、いい感じです。ただ、土は乏しく、火山らしい、ゴロゴロした岩石を踏んで歩く道です。要所要所に目印の赤テープがありました。
今回、私は見つけたい花と虫のリストを作ってきました。ところが、苔類は豊富なのに、花はほとんど見られません。10年前(2015年)の同月同日に須走ルートを歩いたときは、たくさんの花を見ました。ここは地質や環境が異なるのでしょうか? キョロキョロ探しながら歩いていくと、イケマの花を発見! 花にカメラを近づけると、そこに3種のハナカミキリがいました。道はU字溝、V字谷のようになっているところが多く、雨の日は道が川になりそうです。
「一合五勺」と「二合」を通過し、「御殿庭下」(二合五勺)に到着。出発してから正味100分でした。この地点は帰りにも通ります。ここで小休止。日差しを受けるようになって、暑くなりました。携行飲料は、緑茶600ml、スポーツドリンク600ml、水道水300ml。いずれも冷凍してあり、解けた分を少しずつ飲んでいきます。この辺りから地表にはハナゴケ、樹上にはサルオガセが見られるようになりました。明るく開けた場所では、ヒョウモン類(蝶)も飛んでいました。
「三合」で「宝永第三火口」への道を右に分けます。森林はカラマツがメインですが、その背丈がずいぶんと低くなりました。山に引き寄せられるように登り続けます。三合から20分ほどで、樹間に山頂が見えました。一気に元気が倍増します。さらに「三合五勺」に至ると、パッと前方が開けました。この辺りが森林限界でしょう。登山歩道の幅が広くなり、スコリアの道が山頂に真っ直ぐ続くかのように見えます。道の中心に、白いコースロープが置かれています。
ベニイタドリやオンタデのパッチ(島状の群落)がたくさん現れました。ヤマホタルブクロが咲いています(下界にもあるけど)。真っ青な大空に、薄く引き伸ばしたような雲。正面は富士山頂、右手に宝永山。パワー全開でぐんぐん登り、「四合」(山体観測装置)に到着しました。きょうの目的地です。今、目の前に、宝永第一火口と宝永第二火口の壮大な空間。近過ぎて、デジカメを広角端にしても収まりません。簡単に登れたにしては、とても大きなご褒美です。
「四合」の少し先まで行って見ると、「宝永第二火口縁」の道標があり、「富士宮口五合目」への道が左に分岐していました。きょうはここまでとします。7年前(2018年)に富士宮口五合目から宝永山を訪れたとき、よく見なかった宝永第二火口を、今、まじまじと眺めます。富士山の中腹に造形された、優美で巨大な曲線と曲面。緑色・黄緑色のパッチがとてもきれい!そのすり鉢の底に降りて見たい衝動を覚えますが、その道は付けられていないようです。
「四合」に戻ります。宝永第二火口の下縁、小鞍部に道標が見えます。四合からその地点に向かって急傾斜のザレ道を下っていくと、大きな岩が程よい日陰をつくっていました。イワオウギの花が咲き、マルハナバチ、シジミチョウ、ツマグロヒョウモンなどがいて、いい感じです。ここで腰を下ろし、食事にしました。眺望は抜群。富士山屈指の優美な空間と言えるかもしれません。大岩が強風を遮り、何とも平和なランチタイム。極上の休憩所ですが、定員は最大2名です。
昼食を終え、再び急なザレを下ります。緊張しますが、大した距離ではありません。小鞍部に着くと、宝永第一火口と宝永第二火口とを、改めてしっかりと目に焼き付けました。「それではまた来る日まで」、とつぶやきます。この小鞍部から先は、宝永第三火口のすり鉢斜面に付けられたトラバース道を、緩やかに下っていきます。宝永第三火口の底は、下方に見える森林限界のすぐ上あたりでしょう。大きなすり鉢に点在するオンタデのパッチが童話の絵のようです。
森林限界まで下ると、「御殿庭上」です。ここで、歩行モードを「花・虫探索モード」に切り替えました。「御殿庭」と言うのですから、その庭にどんな花が咲き、虫が生きているのか、楽しみです。分岐点の道標を見て、「水ヶ塚・御殿庭」方面に進みました。メルヘンチックな宝永第三火口のすり鉢をもう一度眺め、再び森林に入ります。すると、さっそくアサギマダラがふうわり、ふうわり、と飛んで来ました。長駆省エネ飛行の達人、ロマンをかき立てる蝶です。
三合(御殿庭中)で、今朝歩いた須山口登山歩道に合わさります。ここからは少々荒れたきつい下りなので、足元をしっかり見ていかなくてはなりません。キョロキョロ花虫探索どころではなかったのです。そこで計画を変更し、二ツ塚経由、「御殿場口新五合目」を新ゴールとしました。「二合五勺」(御殿庭下)で須山口登山歩道と別れます。ここから「御殿庭入口」への道は、等高線とほぼ平行。その先もアップダウンは緩やかで、疲れた足にもやさしそうな道でした。
ゴールへの所要時間が大体予測できるようになったので、バスの時刻(17時10分)に合わせ、時間調整をしながら進みました。蝶や蛾は良いショットを得るまで粘って撮影します。小天狗塚、三辻ほか、休憩の好適地も各所にあり、スタミナコントロールも良好。その三辻で花を撮っていたら、背後から迫り来る霧が見えました。そしてあっという間に濃霧に包まれ、視界わずか数mのホワイトアウト。でも有難いことに追い風なので、足取りはすこぶる軽快です。
しばらく歩き続けると、ファンタジックな気分がしてきました。自分一人しか登場人物のいない物語の中にいるようです。大きな富士山の中腹での夢漫歩。辺りに生える幾多のフジアザミは、未だつぼみをのぞかせるだけ。時の経過を忘れた旅人のように、ただ標柱と本能が示す方向に歩き続けました。やがて霧の中からフェードインしたのは、「二ツ塚分岐」の道標。右手の下塚に登ります。視界は濃霧と強風ばかりでしたが、頂上の「日本人の始祖」の碑は見えました。
引き続き、御殿場口新五合目に向かって歩いていくと、一瞬、宝永山がくっきりと見えました。カメラを構える間もなく、霧に隠されてしまいます。そのうち、進行方向に鮮やかな青空の現れる瞬間が何度かありました。なおも荘厳な光のショーのように、宝永山が見え隠れします。やがて道は長い下り坂になり、強烈な風に背を押され、足が止まらなくて困りました。前のめりに倒れないよう、ブレーキを掛けながら慎重に下っていきます。ファンタジーは終りました。
その後もあまりに風が強くて歩き難いので、右手、砂礫の谷道に降りてみると、受ける風が弱くなりました。強風時はお奨めです。幕岩からの道を右から合わせると、もうゴールは間近。16時50分、御殿場口新五合目の駐車場に到着しました。さっそくトイレに行きます。節水のために絞られてはいますが、ありがたくも水が出ました。手を洗うには十分です。外に出ると、紫色の大きな花、フジアザミが咲いていました。謙虚そうに大きな頭を下げる姿が、私は好きです。
御殿場行きのバスは、3分ほど遅れて来ました。乗ったのは、私を含めてたった3人。車内はガラガラです。バスは全く渋滞に遭わず、30分で御殿場駅に到着しました。運好く国府津行き電車にギリギリで飛び乗り、その後の接続もすべて順調、無事帰宅しました。感謝。
きょうは短いコースでしたが、全行程で望外の恵みを頂きました。次は本気で体力増強に取り組み、御殿場ルートで登頂を目指すつもりです。
※追記:4枚目の写真、空色の案内図の脚に「上り一合」と書いてありました。
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