四阿山の山頂からは、北アルプス、八ヶ岳、富士山、浅間山、草津白根山など、360°の雄大なパノラマを望めます。
その西に連なる根子岳は、花の百名山として知られ、緩やかな稜線に展開する広大なお花畑が多くの登山者を引き付けています。
上信越道: 上田菅平IC → 国道144号 → 国道406号 → 菅平牧場
地理院地図: 四阿山
四阿山の天気: 四阿山 , 長野県真田町 , 群馬県嬬恋村
9月8日、親しい山の友に誘われ、四阿山と根子岳を歩いてきました。よく晴れ渡った空の下、美しい山々の大パノラマと、初秋の山野草を心ゆくまで楽しんできました。
午前7時20分、菅平牧場に到着。広く空いていた無料駐車場に車を止めます。外に出ると、そこには息を呑むような北アルプスの連続屏風。峰々の雪を照らす朝の光。牧場に来ただけで、早くも心が満たされてしまいそうです。反対側にはやさしい緑の根子岳。草を食む牛たちを遊ばせています。
足ごしらえをし、ひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込んで、四阿山に向かって出発。牧場への協力金200円は、どこで払えばよいのか分らないので、帰りに支払うことにします。牧場の管理道路をフェンスに沿って5分ほど歩き、乳牛たちに見送られるように、四阿山登山口に入りました。
ダケカンバの森は腰の高さほどの濃緑の笹が地を覆い、その中をよく踏まれた登山道が貫いていました。登山道のすぐ左は広々とした牧草地です。アキノキリンソウの黄色い花が目に付きます。沢に架かる木橋を渡って行くと、マツムシソウ、リンドウ、ツリガネニンジン、ノアザミなど、紫色の花が増えてきました。これらの花をデジカメで撮影すると、青みの強い色に写りがちです。特にリンドウでその傾向が強くなるようです。
1時間ほど登ると、南側に視界が開け、浅間山が見えてきました。どっしりと、重量級の存在感があります。噴煙は見えません。右肩にピンと立った小さな峰は、一年前、強風に煽られながら登った前掛山。その右手前、第一外輪山の頂点は黒斑山(くろふやま)、さらにその右手前に横たわる山塊の中心には東西の篭ノ登山(かごのとやま)。いずれも麓にたなびく白い雲の上に浮かんで、画家が描いたような絵になっています。南はるかに富士山が頭だけ、ちょこんと見えています。
牧場から正味一時間ほどで小四阿に至り、眺望が大きく開けました。小休止して、山々を眺め渡します。行く手の四阿山から左手の根子岳にかけては、ゆったりと垂れ下がった吊尾根。北アルプスの左には木曽山脈。さらに左に、御嶽山、八ヶ岳という配置です。はるか遠方の富士山も、ぐんぐんと競り上がってきました。
小四阿から少し行くと、ダケカンバの林が終わり、素晴らしい展望がいつでも欲しいままになりました。昼寝ができそうな庭のような場所がいくつもあります。きっと夏にはお花畑だったのでしょう。白い花のウメバチソウ、ウスユキソウなどが咲き残っています。照り輝く葉と花茎だけになったイワカガミ。白い綿毛のヤナギラン。牧場から山頂までずっと咲いている、マツムシソウとリンドウは今が真っ盛り。
小四阿から40分ほどで、中四阿のピークです。私たちは南側の巻き道を行きましたが、休憩にはもってこいの見晴台です。ここから少し下って登り返すと、四阿山の崩落箇所がよく見えてきました。登山道はこの崩落した斜面の右を巻いて行きますが、危険な箇所はありません。
やがて、それまではなだらかな台地のようにしか見えなかった四阿山の山頂が、円錐形になって見えてきました。ちょっぴり小粋な感じです。その先、足首程度の丈の笹が覆う草原が広がる中、根子岳への分岐点を示す道標がありました。ここから四阿山頂まで往復します。
四阿山頂の手前には、「植生復元作業をしています」と書かれた木の階段がありました。なぜか、ステップが前のめりに傾いています。ミヤマカラスアゲハ、キベリタテハなどのやや派手な蝶が、尾根の上をヒューと飛んで行きました。
牧場から3時間弱で、四阿山頂に到着しました。ガイドブックなどに書いてあるとおり、360度の大パノラマです。さすが、百名山。もちろん、天候の賜物でもあります。あまり広い山頂ではありませんが、平日とあって、登山者は多くありません。ゆったりと石に腰を下ろし、昼食を頂きます。友人が温かい味噌汁を作ってくれました。日本の誇るべき疲労回復食品です。
四阿山頂では約1時間ほど最高の時間を過ごしました。山頂には主(ぬし)のような蝶が陣取っているものですが、この日山頂の岩を支配していたのは、平地でもごく普通に見られるキアゲハでした。浅間山の火山館の近くでも、キアゲハの幼虫を見たことがあります。山頂によって蝶の種は異なりますが、主は人をあまり恐れないのですぐに分かります。
山頂を後にし、四阿山・根子岳分岐まで戻って、根子岳に向かいます。このあたりで四阿山を目指す登山者たちに次々と出会いました。根子岳が三角錐の形に見えます。その山頂から東南東に伸びる、ほぼ真っ直ぐな稜線の南側が明るい緑の草原、北側が樹林帯にと、くっきりと植生が分かれています。眼下に見えていて、すぐにでも登れそうですが、一旦深い鞍部にまで下らねばなりません。
鞍部までの下りは結構長く、傾斜もきつく感じられました。登り返さねばならない下りは、もったいないので早く終わって欲しい。ジグザグが少ないので、下りはまだ良いとしても、登りは大変そうです。樹木に覆われているので、陽射しは防げますが、景観の励みはありません。あまり山慣れしていないように見える人が登ってくると、老若にかかわらず「元気ですねえ!」と言ってあげました。
30分ほど下って、ようやく「大スキマ」と呼ばれる鞍部に到着しました。四阿山からは低く見えた根子岳が、ここでは高く毅然と立っています。広々とした斜面は、牧草地にも似た黄緑色の笹原。そこに極めてまばらにちりばめられた、濃緑の木々。笹原にフリーハンドで描いたような細い登山道が、尾根筋を経て山頂へと続いています。
さて、この美しい道を根子岳に向かって登り始めると、とても楽しい道でした。まず、行く先がよく見えるので、山頂がどんどん近づくのが分かります。下を見れば、大スキマがどんどん遠ざかって行きます。足元にはリンドウ、マツムシソウなど、数は少ないのですが、笹原の上品なアクセントです。先ほど「知り合い」になった四阿山の視線も背中に感じます。広大な空間を楽しめるこの明るい尾根。真夏にはちょっと陽射しが暑いかもしれません。
尾根の途中にある石庭のような場所で小休止し、ゆっくりと展望を楽しみました。こんなよく晴れた日は、早足で駆け抜けるのはもったいない。美しい姿を惜しみなく見せてくれている山々にも申し訳ないでしょう。山頂に近い岩場の陰にはミヤマダイモンジソウが白い繊細な花をつけていました。
根子岳の山頂は明るく広々としていました。四阿山頂よりもずっとたくさんの人々がいます。横になって昼寝をしている人も。石の祠があり、その近くに鈴の付いたベルが下がっています。時々アサギマダラ(蝶)が山頂を越えて天高く飛んで行きました。
根子岳から右に小根子岳、峰の原、ダボス方面への道を分けます。私たちは左へ、菅平牧場の駐車場に向かって下ります。はるか下の方まで樹木が無いので、駐車場も、牧場も、スキー場も、北アルプスも、全部丸見えです。
なだらかな登山道の両脇には、お花畑を保護するロープ。花の最盛期は過ぎていますが、花たちも虫たちもいろいろに、根子岳をメルヘン化しているようです。時おりそんな道の脇役にカメラを向けて道草を食いながら、満たされた心で軽快に下って行きます。もう午後1時を回っていますが、まだまだ登ってくる人々に出会います。
根子岳山頂から正味一時間ほどで、牧場に着きました。まずきれいなトイレで洗面。さっぱりとした気分になります。次は休憩所に行き、楽しみにしていたソフトクリーム。よく味わって美味しく食べました。外に出て、もう一度根子岳を見上げます。ここに来るすべての人々に笑ってくださいと。最後に駐車場を出て、少し坂を下ったら、道路わきに女性が座っていました。車を停め、感謝の心で協力金を支払いました。
よい日に、よい友と、よい山に登る。天地人の理想がかなった、素晴らしい一日でした。
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