初夏、丹沢三峰の魅力の筆頭は、おそらくシロヤシオツツジでしょう。五月中旬から標高の低い方で咲き始め、順次標高の高い方に見頃になって行くようです。
丹沢三峰に短時間で日帰りできる、一般向けのルートは、今のところありません。静かに花を観賞する適地と言えるでしょう。
神奈中バス: 渋沢駅 → 大倉(終点) 神奈中バス: 本厚木駅 ← 三叉路
地理院地図: 丹沢三峰
丹沢三峰の天気: 丹沢山 , 秦野市 , 清川村 , 三叉路
丹沢三峰を大山三峰山から望む
レポ: 丹沢山とシロヤシオ , 丹沢三峰
5月24日、丹沢三峰にシロヤシオを愛でて来ました。たくさん咲いた真っ白な花に、目も心も奪われました。今年は当たり年と言っていいでしょう。 大倉から三叉路まで長いコースですが、省エネモードで無理なく歩いて来ました。
午前6時23分、小田急線渋沢駅に到着。すぐバス乗り場に行くと、早くもバス1台分の行列ができていました。6時35分頃、増発便のバスが入り、乗客をすし詰めにして40分に発車。私は48分発の定時バスに乗り、悠々と大倉まで座って行きました。きょうも、省エネモードに徹するつもりです。
昨年7月の丹沢三峰「省エネ登山」に倣って、大倉尾根を大雑把に5分割し、5分程度の小休止を4回取ることで、楽々塔ノ岳に達する計画です。果たして、これは大変うまく行き、疲労感なく大倉尾根をクリアできました。途中で次々と後続者に追い抜かれて行きますが、山行目的を果たすために、自分自身の経済速度を守ることが肝要です。
大倉尾根で気になったのは、地面がかなり湿っていたことでした。これからの季節では、ヤマビルの出やすい条件だからです。特に宮ヶ瀬付近はヤマビル出没の危険地帯らしいので、気をつけねばなりません。一応防虫剤は持って来ましたが、できるだけ使いたくないものです。
金冷シ手前、やせ尾根あたりのトウゴクミツバツツジは、ほとんどの木でつぼみがまだ固そうでした。塔ノ岳直前のニシキウツギも、花が見られませんでした。今年のシロヤシオはどうでしょうか。塔ノ岳山頂に花の木はありません。でも眺望の優れた山頂は、すでに多くの人々で賑わっていました。バス1台分よりも多くの人がいたと思います。富士山が見えて、「よかったあ!」という声が何度か聞かれました。
私は先が長いので、小休止を取ると、すぐに丹沢山に向かいました。シロヤシオの群生地は、塔ノ岳のすぐ近くから始まります。来て見ると、たくさんの木に白い花がびっしりと垂れ下がるように着いていました。花が閉じているので、何だか別の植物みたいです。残念、来週出直そうかな? 花の数が多いだけに、いっそう残念でした。それでも、美しく咲いた木が少しだけあったので、蛭ヶ岳と丹沢山を入れて撮影しました。
その先も、丹沢山に至るまで、真っ白なつぼみが雪のように着いたシロヤシオの木が点在していました。今年は花芽のできる条件が好かったのでしょうか。蛭ヶ岳山荘のウェブサイトにある、「蛭ヶ岳情報」によると、「...今年は花芽が多いようです。シロヤシオは5月後半から6月初めが見ごろになりそうです。 今年は2月の大雪で...花の咲く時期が例年より少し遅れているように感じます。これからが花の季節です。今年のシロヤシオ、トウゴクミツバツツジはお見逃しなく...」とのことです。丹沢三峰に期待しましょう。
丹沢山の山頂広場は、ほとんど展望が利かないので、手前の竜ヶ馬場で昼食にしました。ベンチテーブルもたくさんあります。リュックを下ろすと、塔ノ岳と大山三峰山方面に展望がありましたが、表尾根は完全にガスの中。表尾根を歩いていた人たちには、気の毒だったかもしれません。
丹沢山頂のバイカウツギは、まだごく小さな花芽の状態でした。富士山は雲に包まれ、陰影も薄くなっていましたが、ぎりぎりセーフ。山頂広場のベンチは空きがなかったので、100mほど不動ノ峰方向に歩いて、一休みしました。蛭ヶ岳、同角ノ頭、鍋割山稜などをよく見渡すことができます。私が考案した、鍋割山荘を見つけ出す『視界判定 / 視力検査』を実施、合格しました。
丹沢山頂の道標には、 宮ヶ瀬 11.0km / 塔ノ岳 2.5km と書かれています。ここまで体力を温存してきたので、日のあるうちに歩き切る自信は十分にあるのですが、大倉に戻るよりも遠い道程ですから、それなりの覚悟を迫られます。12時18分、緊張感と期待感とをもって、宮ヶ瀬方向に踏み出しました。
まずは、バイケイソウの群落の中に設置された木道を下って行きます。10分も経たないうちに、シロヤシオが見られるようになりました。塔ノ岳付近のものと同様、まだ花がよく開いていない木がほとんどでしたが、咲いたばかりの初々しい花も一部に見られました。手の届く高さにも花がたくさんあるので、間近に鑑賞することができます。また、瑞々しい花はマクロ撮影で、とてもきれいに写ります。
さらに下ると、開花の進んだシロヤシオがどんどん増えてきました。足が止まって、カメラを持つ手が動きます。カメラの電池切れが心配になったほど、たくさんのショットをデジカメに収めました。満開の桜のようにびっしりと花を着けた木、花と花が重なり合って、八重咲きのように見える木、こんなにたくさんの花を着けてしまって、来年も咲かせることができるでしょうか。きれいな花姿に感動して撮影ばかりしていると、いっこうに足が進みません。
開花したトウゴクミツバツツジも増えてきました。シロヤシオよりも数は少ないのですが、新緑の山中における目立ち度は抜群です。同じツツジどうし、同じような環境を好むのでしょうか。紅白が混在するところは、互いを引き立てあって、どちらが主役とも言いかねるほどです。ここまでかなり時間が経ったのですが、道標を見たら、丹沢山からわずか1.0kmしか来ていませんでした。
ひときわ大きく立ち、花着きもみごとなシロヤシオがありました。そのとき思い浮かんだ言葉は、『豪華』です。目の前の『豪花』を見ると、その意味を納得します。花には、当たり年とハズレ年があるといいますが、今年は大当たりでしょうか。「丹沢三峰 シロヤシオ」の画像検索で、こんなによく咲いている写真を見たことはありません。丹沢山から42分もかかって、ようやく瀬戸沢ノ頭にたどり着きました。
その先でも紅白の両ツツジは、とどまることがありませんでした。日陰では淡く交じり合い、日向では鮮やかに交じり合う、「優美」と言っていいか、「華麗」と言っていいか、詩人か文学者に尋ねてみたいほど。テレビ局の方々は、最新鋭の4Kカメラを担ぎ上げて、撮影しておくべきではないかと思いました。いや、すでに西丹沢で撮影しているかもしれません。そして、丹沢三峰は、そっとしておくのがいいのかも知れません。
ところで、忘れているわけではありませんが、ここは豊かなブナの森林です。このブナたちがツツジを守っているのでしょうか。青い空と緑の森とは、紅白ツツジの美しい背景ですが、ツツジの花が散ってしまっても、それ自体のすばらしさは不変です。生い茂るブナの巨樹たちを見上げると、易々とは移ろわない美しさに、安堵を覚えました。人のいない、静寂の山。どこかで鳴いているホトトギス。その声が「特許許可証」と聞こえます。
太礼ノ頭を過ぎると、散ったシロヤシオの花が地面を飾るようになりました。その数もまた膨大です。落ちた花がきれいでいられる時間はわずか。誰にも見られず咲いて散る花に心があれば、どんな想いで土に帰って行くのでしょうか。そんなことを考えていると、きょうは、私が花を見たくてこの山に来たのですが、短い花の生命を見てあげるために、私が遣わされて来たような気もしてきました。
太礼ノ頭と円山木ノ頭の中間点あたりで、西方に視界が開け、丹沢山塊の最高峰、蛭ヶ岳が望めました。うまい具合に紅白のツツジが前景に配置され、左近(シロヤシオ)と右近(トウゴクミツバツツジ)のようです。また、円山木ノ頭の手前からは、右後方に丹沢山を望めました。展望の乏しい丹沢三峰ルートでは、いずれも貴重なビューポイントです。
円山木ノ頭に、スミナガシ(蝶)がいました。縄張りを守っているらしく、他の大型の蝶が近づくと、ピューと猛スピードで飛んでいって追い払います。これが面白いので、休憩を兼ねてしばらく眺めていました。きょうは気温も上がったので、ペットボトルの水をかなり消費しています。その分、リュックも軽くなりました。幸い、足腰の動きも順調です。この先、花が見られなくなれば、快速で下ることもできるでしょう。
無名ノ頭と本間ノ頭を越えると、両ツツジともめっきり花が減りました。ただ個体差がかなりあるようで、まだ見頃の木もあれば、花が完全に終わった木もありました。宮ヶ瀬はまだまだ先なので、少し急ぐことにします。急坂は慎重に降りなければなりませんが、アップ&ダウンのほとんどない巻き道ではスピードが出るので、重力に任せて小走りに下って行きました。樹木以外にこれと言って見るべき物もない区間が、延々と続く忍耐の道です。
金冷シを過ぎたところ、崖っぷちの狭い道に、小さな岩場があります。昨年通ったとき、ここのロープが擦り切れかけていたので、もし体重を預けると危ないと思い、秦野ビジターセンターに報告したことがありました。今回見ると、新しいトラロープに交換されていました。しかし、岩の角にあたる部分が再び擦れ始めています。下山の人には擦り切れ箇所が見えないので、要注意です。ロープはバランス取りの補助として使うくらいにしておく方がいいでしょう。
この先、バスの待ち時間が長くなり過ぎないよう、ゆっくりと歩いて行きました。ところがバスの時刻まで残り30分くらいになったとき、勘違いに気づいて、一転走ることになりました。本厚木駅行きのバスは、1時間に1本です。急いで駆け抜けたので、ヤマビルがとりつく隙はなかったでしょう。最後まで時計を見ながらうまく走ったので、三叉路のバス停に着くと、1分も待たずにバスが来ました。乗るのは私だけです。車外スピーカーから聞こえる「お待たせしました」の声が、耳に心地よく響きました。
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