大谷ヶ丸は、南大菩薩、小金沢連嶺の南部にあり、滝子山と笹子雁ヶ腹摺山に通じる縦走路の分岐点にあたります。カラマツ、ミズナラ、ブナなどの林相が美しく、詩的な雰囲気を持っています。
大谷ヶ丸へのアクセスルートはいくつかありますが、エスケープルートの設定しにくい山域です。地図をよく見て、ルートの選択肢を持って臨みましょう。
甲州市市民バス: 甲斐大和駅 ← やまと天目山温泉
地理院地図: 大谷ヶ丸
大谷ヶ丸の天気: 大月市 , 甲州市 , 笹子駅 , 甲斐大和駅
滝子山に続く稜線から望む大谷ヶ丸
レポ: 大蔵高丸・ハマイバ丸 , 滝子山
山の秋も深まった彼岸過ぎ、しばらく足が遠のいていた南大菩薩を訪れたくなり、まだ歩いたことのなかった大谷ヶ丸を含む縦走路の一部を歩いて来ました。
電車が大月に着くまでは青空が見えていましたが、その後曇天となり、下車した笹子駅は粉ぬか雨でした。国道20号を東へ、吉久保入口バス停まで20分ほど歩きます。狭い国道を大型トラックが轟音を立てて走る、その傍らを歩くのは気分のいいものではありません。吉久保バス停に来たら、笹子駅前7時41分発のバスを利用できることが分かりました。また中央高速バスをうまく利用できれば、「中央道笹子」バス停が、格好の位置にあります。滝子山、大谷ヶ丸、お坊山(東尾根)などに向かう場合は、時刻表を調べてみる価値がありそうです。
中央道を越え、櫻公園にやって来ました。桜の木がたくさんあって、花の季節にはきれいなことでしょう。ここでリュックを下ろして準備運動。この先、大鹿川沿いの林道を登って行きます。林道歩きでは、登っているという実感がほとんどありませんが、よく見るとかなり傾斜があり、知らぬ間に高度を稼いでいます。沿道には、ヤマハギ、シモバシラ、クサギなど、初秋の花が見られましたが、ヒガンバナはもうありませんでした。
櫻公園から30分ほど林道を歩いて、道証地蔵(みちあかしじぞう)に到着しました。ここから右の「すみ沢」に下りて行きます。その沢に架かる木橋を渡ると、いよいよ本格的な登りです。雨後の登山道はしっとり冷えていて、半袖ポロシャツ1枚でちょうどよく感じました。落ちた杉の葉を踏みしめながら登って行くのですが、見上げるとなぜか檜ばかり。檜の葉は落ちるとすぐに朽ちてしまうのでしょうか。暗い登山道に花はなく、キノコがたくさん生えていました。
すみ沢には、三丈の滝をはじめいくつもの小滝が次々と現れます。流木や枝がたくさん溜まってごちゃごちゃとしているので絵にはなりませんが、水量がほどほどにあって、耳と肌には美滝です。杉や檜がたくさん倒れているところがありましたが、倒れにくいブナや楢類と混植させたらどうなのだろうかと考えました。滝子山への登山路が難路と迂回路とに分岐する地点では左折。大鹿山登山路の一部が、その迂回路を兼ねています。気がつくと、ミズナラとブナの多い広葉樹林になっていました。
曲り沢峠を左に指す道標が立つ地点で、滝子山への迂回路を右に分けます。ここから曲り沢峠へは、ほぼ水平の道になって、足どりも軽やかに、筋肉が回復して行くのを感じました。約12分で曲り沢峠に到着。ここは、本来の峠らしく十字路なのですが、「甲斐大和駅方面へは、崩落のため通行できません」と書かれていました。展望はありませんが、ほっとする雰囲気があります。レイジンソウが一株だけひっそりと咲いていました。峠名の書かれた白い標柱には、「大和村」の文字も見られます。
曲り沢峠からは、縦走路を歩きます。笹子峠から米背負峠までの稜線は、基本的に南西から北東へと伸びています。この先どこか、展望が利いて南アルプスや奥秩父の山並みを望める場所があるでしょうか? まずはコンドウ丸を目指します。念のため熊鈴を装着。相変らずブナやミズナラの多い道を、樹木を楽しみながら登って行きました。気になったのは、ドングリが落ちていないこと。一年前、笹子雁ヶ腹摺山からお坊山へと歩いたときは、夥しい数のドングリが見られたのですが。
コンドウ丸(1392m)の山頂には、立派な山頂標が立っていました。お坊山東峰や笹子峠以南の道標デザインに見られる、桜の花のイラスト入りです。展望はなく、ベンチやテーブルもありませんが、安らぎを感じさせてくれました。この場所が気に入ったので小休止し、水分補給と行動食を少し口に入れます。汗をかいていましたが、無風で暑くも寒くもありませんでした。
コンドウ丸を発つと、カラマツが増えて来ました。カラマツは針葉樹ですが、光がよく透って、明るい雰囲気になっています。落ちた松葉を踏みしめながら、軽やかに気分よく歩いて行きました。奥多摩や丹沢の山々とは違った、独特の味わいがあります。オレンジ色のツタをまとった松もあり、唱歌「もみじ」のメロディーが浮かんで来ました。尾根の狭くなった箇所では、枝と枝のすき間から、南アルプスの甲斐駒ヶ岳、地蔵岳オベリスク、白峰三山などを何とか望めました。
明るい防火帯にはマルバダケブキの黄色い花が咲き残り、登山道にヤマトリカブトの花が散見されるようになりました。前方には大谷ヶ丸があるのですが、樹木に隠されてほとんど見えません。クマがつけたと思われる、深い爪あとの生々しい木もありました。熊鈴にクマ除け効果が本当にあるか分かりません。でも、ことさら鈴がよく鳴るような歩き方をして、注意深く登って行きました。大谷ヶ丸山頂の直前は、なかなかの急傾斜。最後のがんばり所です。
急登を乗り切って大谷ヶ丸山頂に着くと、濃い霧が迫って来ました。魔法でもかけられたかのように、霧はあっというまにやって来て、東からも西からも複雑に流れ、視界は10m程度しか利かなくなりました。下界から見れば、雲が山頂を通過中だったのでしょう。ここはガスが薄くなるまでお茶とおやつの時間にしました。もちろん、眺望どころではありませんでした。
15分ほど経って、見通しが利くようになったので下山を始めました。まずは縦走路を米背負峠(こめしょいとうげ)に急降下します。もしやレンゲショウマでも咲き残っていないかと目を凝らして行きましたが、紫色の花とミツバのような葉は、ヤマトリカブトばかり。レンゲショウマは見つけられないまま、米背負峠に着いてしまいました。ここは「峠」と言っても、現在は事実上のT字路で、東に下れそうな道はありません。
西の甲州市側に下る道は、ロックガーデン風で、楽しく歩けました。シダ類や苔類が生し、木漏れ日が差し込むととてもきれいです。山に砂岩があって、沢の床に磨かれた砂が堆積し、流れる水がキラキラと、そこだけが小さな別世界のようでした。
米背負峠から40分ほど沢沿いを下ると、大蔵沢林道に下り立ちました。大きな青空が目に入ります。この林道を5年前に下ったときは、一部が大きく崩落していて、その修復工事をしていました。今は完全に修復済みです。しっかり舗装されているので、スロージョギングで下れば、かなり所要時間を短縮できそうです。
走り始めたら、すぐに素晴しい展望が待っていました。大きな修復地の上のガードレールから、お坊山、トクモリ、米沢山、笹子雁ヶ腹摺山を経て大洞山へと続く稜線、その背後に御坂黒岳、釈迦ヶ岳がくっきりと望めます。富士山はスロープの一部を見せ、ほとんど雲の中でした。崩壊自体は好ましいことではありませんが、一時的に樹木がなくなったゆえに見られるパノラマなのでしょう。しばし足を止めて、見とれていました。
大蔵沢林道が南に蛇行して張り出す箇所で、初めて大谷ヶ丸を邪魔ものなく望めました。ただその山容は開いた扇のような形で、滝子山方面から望んだときのような端正な姿とは、ずいぶんと異なって見えます。他方、お坊山から笹子雁ヶ腹摺山に至る稜線は、反対側から見たときと、ほぼ同じように見えました。きれいな青空と白い雲。くっきりした藍色の稜線。私は急ぐわけでもないので走るのをやめ、遊歩モードに切り替えました。
大蔵トンネルの手前で、大谷ヶ丸の見収めになります。振り返ってお別れの撮影をし、懐中電灯を取り出して真っ暗なトンネルに入りました。大蔵トンネルは中でカーブしているので、はじめのうちは出口が見えません。車が通るかもしれないので少し緊張しますが、丹沢の新青崩隧道と比べれば、怖いというほどではありません。すぐに通り抜けてしまいました。
やまと天目山温泉では、バスが来るまで3時間ありました。入浴料は3時間まで510円なので、ちょうどいい具合です。入浴後、ガラガラに空いた大広間でぐっすり眠って、最大限の疲労回復ができました。17時12分の甲州市市民バスに乗ったのは私だけ。運転士さんはその日、中高年グループを下ろした後、どこに行ったか心配だと言っていました。甲斐大和駅には定刻に到着。特急の通過待ちで遅れていた電車にタイミングよく乗ることができました。
この日は、山からの遠望には恵まれませんでしたが、小金沢連嶺の末端で、静かに初秋の林相を味わうことができました。次は、白野宿までバスを利用し、滝子山と大谷ヶ丸をつないで歩いてみようかなと思います。
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